小説
俺の屍を越えていけ

13代目ご当主 沙霧時世の句
「実は、俺…好きな女がいたんだ…別におかしくはないだろう?」
…それはいつのことだったのかよく覚えていない
桜が舞っていた気がするが、時の流れを忘れようと生きてきた俺には
あやふやな記憶でしかない
いつものように京の街を探索していた
自分の命の限りは知っていたから、時の流れ以外の全てを忘れないように、この瞳に、
この心に刻み付けることができるように注意して歩いていた  その娘は泣いていた
白い手であふれる涙をぬぐい、瞳を赤く染めていた
不謹慎にも綺麗だ、なんて思った
そのままそこにどのくらい立ち尽くしていたのかわからない
10秒に満たなかったかもしれない
10分もいたかもしれない  それだけだ
俺の記憶の中にある彼女の姿は
二度と会うこともなかった
一年とちょっとの短い人生、彼女とは隣り合う時間さえ俺には許されていない  
でも、俺は自分が幸せであると思う
この短い人生の中で、俺は本当に自分が好きなものを見つけたのだ
長い人生の中で、自分の本当を見つけられない人間もいるというのに
幸せなんて手に入れにくいもので手に入れやすいものなんだ、きっと
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