月が狼に恋をした夜
湖のほとり 体中が痛くてユディシティラは目を覚ました。 柔らかい草の上に寝たつもりだったのにそんなものは気休めだったらしい。 いつもアルジュナはこんな風に睡眠をとってるのかしら…眠い目をこすりこすりユディシティラは周りを見回した。が…自分のほかには誰もいない…アルジュナがいない! ユディシティラは一瞬のうちに目を覚ました。そして、恐慌状態に陥った。 「アルジュナ…アルジュナーア!!!どこ、どこよーう!」 ユディシティラは泣き叫び、わめき散らした。10分経ち、アルジュナの姿が現れないのを確認すると、アルジュナを探すために歩き回った。 しばらく練り歩き、ユディシティラが見つけたのはアルジュナではなく澄んだ泉だった。ユディシティラは歩くのも嘆くのにも疲れていたのでひとまず、湖畔で休むことにした。 泉を覗き込むと目を晴らして髪の毛もぼさぼさのみっともない女の顔があった。 「…みっともないわね…」 本当にユディシティラの気持ちは惨めだった。自分の姿もそう、見捨てられた自分の状況もそう。 あまりにも自分は惨め過ぎる。ユディシティラはどうでもよくなって寝転がった。寝転がったところで何も解決しないが、なにもかも面倒くさくなってしまったのだ。 ユディシティラはまさに大の字になって寝転がっていた。濃い木々の間から空が見える。 さっきから軽い睡眠を幾度となく繰り返している。お昼近いみたいだ。 「お腹すいたなぁ…どんな時でもお腹がすくなんて人間の体って不便よね」 「だったらむやみやたらに歩き回るな」 ユディシティラは驚いて跳ね上がった…つもりで、眼を動かした。寝起きの体はなかなかいうことを利かない…。アルジュナがいた。相変わらず表情のない顔をしている。 「あ…アルジュナァアアアア!!!!」 抱きつきたい気持ちだった。でも、やっぱり体は動かない。手をばたばたさせるのが精一杯だった。 アルジュナはいかにも理解不能なものを見るように眉をひそめている。 それでもユディシティラはしつこく手をばたばたさせた。とにかく興奮が収まらないのだ。 アルジュナはそれをあっさりと無視して動き出した。どうやらまた食事の用意らしい。 ユディシティラはなんとなく安心して、それを見守ることにしたが…ふと、自分のひどい顔の事を思い出して悲鳴をあげた。もちろん、アルジュナはそれを軽く無視した。 うさぎとは違う小動物が今日のメニューのようだった。ユディシティラにとってその素材が何であるかなんてすでにどうでもいいレベルだったが。 「い、いただきます…」 ユディシティラはやっとの思いで体を起こし、下を向きながら食事をむさぼった。 そうだ、朝アルジュナがいなかったのは食事を調達しに行ってくれてたのだ。とすると、自分があの場を離れたことはアルジュナにとって迷惑そのものだったのではないか… ユディシティラは落ち込んでいた。もちろんそんなユディシティラに優しい言葉をかけるようなアルジュナではなかったから、食事は無言のままでとても味気ないものだった。 「顔洗え。洗ったら出発するぞ」 食事の終わり時にアルジュナがそうつぶやいた。ユディシティラは素直に従うことにした。本当ならば、ここで体を洗いたいところだが、それを提案する元気がなかった。それにアルジュナに迷惑をかけて嫌がられるのが怖かった。 そして、アルジュナの提案通り、顔を洗うとすぐに出発した。 ユディシティラはぽてぽてとアルジュナの後を追いかけた。脚のパースが違うのだから、もっともっと自分は一生懸命歩かなければいけないことをユディシティラは感じていた。だが、疲れと落ち込みが脚を重くしている。アルジュナは知ってか知らずか、少しも振り返ろうとはしてくれない。 「この分だと今日の夕方までかかるな。それぐらい我慢できるだろう?」 突然アルジュナが話し掛けてきた。ユディシティラは力なくうなづいた。 夕方にどこへつくのかわからないけれど(アルジュナのすんでいる山小屋というところかしら…)、私はあなたの言う通りにどこまでもついていきますとも…気分はそんな感じだった。 「…どうした、腹が減ったのか?」 ユディシティラは少し驚いた。アルジュナの口からそういった自分を心配する単語がでてくるとは思わなかったからである。しかし、いつも事あるごとに「腹、腹、腹…」だなんて…そんなに私はひもじそうな顔をしているのか、とがっくりした気持ちもあった。 「平気、大丈夫…」 ユディシティラは精一杯の笑顔を見せようと顔をアルジュナに向けた。 その瞬間、めまいがした。これはまずいかもしれない…意識が…ユディシティラはそう思った。だが、その瞬間にまさに意識はフェードアウトしてしまったのだった。 人間の母親が、子供を背に負っていた。赤ん坊は、母の背で幸せな眠りをむさぼっている。 暖かい人の体温が自分の肌に触れるのがうらやましかった。その暖かい背に、腕に自分も抱かれてみたいと思った。 でも、私には… 「ぼっちゃま!」 しわがれた老人の声がした。ユディシティラは突然覚醒した。 暖かい背。これは… 「アルジュナ…!」 ユディシティラはアルジュナに背負われていた。アルジュナは、ユディシティラの覚醒に気が付くと、その両腕を無造作に解き放った。 「きゃぁ!」 まさにしりもちをつく状態で、ユディシティラは地面に投げ出された。 ユディシティラは非難の言葉を紡ごうとした。が、黙ってしまった。 それは、目に映ったものに心を奪われてしまったからだった。 目の前に立つアルジュナ…そして、その前に立つ老人。 そして、彼らの後ろには… 「こ、これが…アルジュナの丸太小屋…?」 彼の丸太小屋はかなりのものだった。一日や二日でその中を回ることが不可能に近そうなくらい大きい。 第一、丸太なのに木で出来ていない。 「城」といってもおかしくない堂々とした大豪邸がそこにはそびえたっていた…。 *>>>TO BE CONTINUED.....>>>製作中〜(笑) |
|
小説ページトップ ∴ みつけたきせきへもどる ∴ 小説の書き方本 ∴ 朱沙のおすすめ小説 |