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あやつの名前は、レティというそうじゃ。本名は女の子の名前みたいでどうのこうの、言うておった。にしても…寡黙じゃとは思っておったが…本当に無口じゃのう〜。
リノアンはそう言った。リノアンと彼はこの国へ来る船で知り合ったらしい。ずっとろくに食事を取ってないと言うので、姉のところまで連れてきたそうだ。知り合いを探して旅をしているという事意外、リノアンも聞いていないという。
あのコ、貴方になんとなく似てたわね。
モリガンがつぶやいた。
「同じワーウルフだからね…モリガンは俺以外に、ワーウルフって見たことないからそう思ったんだよ。それに…彼と俺じゃ、毛色があんなに違ったじゃないか…」
俺が笑いながら言うとモリガンは、冷めた目つきをして言った。
色が違うからなんだと言うの。あのコと貴方は同じ眼をしていたし、同じ雰囲気もってたわよ。…あのコ、貴方のことずっと見てたわよ。本当に、せつなそうにね。案外、探していた相手って貴方じゃないの?それにね、似ているって言うのは、外見が似ているとか似ていないじゃないの。心よ。身体なんてただの心の器じゃないの。
よくわからない衝動が俺の身体を走った。俺は彼を追わなければいけない。もっと彼から話を聞かなければいけない。そう思った。
どこへ行けばいいのか当てはなかった。ただ、俺は走った。街角を通り抜けて、小高い丘へ向かう道なりにレティはいた。俺の姿を見ると、かなり驚いた顔をした。
「その…レティ。…君はレティって言うんだよね?」
レティは不安そうな顔をして俺の目をじっと見ていた。でもやはり、一言もしゃべろうとはしない。意を決してレティの側に近寄ろうと、俺が足を踏み出した瞬間だった。
強い横風が突然、凪いだ。周りの木々が騒がしい葉音を立てる。強い風の向こうに見えたのは、小さい黒い髪の子供。それは、俺に向かって手を伸ばしている、レティだった。
頭がずきっとした。頭の中にいろいろな画面が現れては消えた。そして、最後に俺の頭に残ったのは、オレンジ色に包まれていくレティだった。
「レティシア!!!!」
俺は叫んでいた。そうだ。俺はレティを助けないといけないんだ。レティシア、俺の弟を…。
ニルヴァーナ、大丈夫か?
肩を揺すられて、俺ははっと我に返った。すぐ側にレティの顔があった。どうやら、俺はしりもちをついてしまったらしい。
間違えたかと思った。良かった。
レティがそう言って照れくさそうに笑った。俺はレティを抱きしめた。
俺は思い出した。10年以上も記憶の底にあった俺と俺の半身の事を。まだ少し頭はぼやけていたし、混乱していたけれど、自分に欠けていた何かが、戻ってきたことだけは、はっきりと感じていた。
「ごめん、レティ…ごめん…俺…。ずっとお前を助けたかったのに…情けないアニキでごめん…」
レティは首を軽く振って笑っていた。
いいんだ。ニルが生きていてくれただけで良いんだ。
俺は更にレティを抱きしめた。暖かいぬくもりを感じた。それは、小さい頃に感じた、何ものにも変えがたい温かみだった。レティの小さかった身体は、たくましく成長していて、少しくすぐったく感じだけれど、確かにこの匂いは愛する弟の匂いだった。
「ありがとう…生きていてくれてありがとう」
俺はつぶやいた。
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